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コロナ禍に立ち向かう国内外のクラフトビール

今後、定期的にビールのニュースを振り返る記事を書くことになりました。まずは4月ごろから6月までを振り返ろうと思いましたが、やはりコロナ禍におけるビール、特にクラフトビール会社の動きを振り返ることにしました。彼らの動きはビール業界を超えて、広く称賛されるべきものが多かったでしょう。

公開日:2020年6月9日
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世界レベルで先進的な取り組みを進めるブリュードッグ

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コロナ禍が本格化してから、世界に先駆けて行動を起こしたクラフトビール会社が、スコットランドのブリュードッグです。世界中の人々に勇気を与えたという意味では、ビール会社、いや、民間企業として世界の先駆けとなったと言えるでしょう。

3月18日、英国でもアルコール消毒液が市場で売り切れている状況を受け、自前の蒸留設備で製造することを発表しました。ブリュードッグはビールの他、下の写真(2019年1月筆者撮影)のように「ローンウルフ(一匹狼)」というブランドで、ジンやウオトカ、ラム、焼酎までつくっています。彼らが本部を置くスコットランドのエロンというまちにある設備を使い、販売はせず、必要とする医療機関に無料で届けるというわけです。
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22日にはアルコール消毒液が完成し、午後には、エロンから近いアバディーン(スコットランド第3の都市で、ブリュードッグ公式バーの1号店ができたまちでもある)の医療施設に届けられました。なお、翌23日から社用の配送車を使って、地元の学校の給食を生徒の家に無料で届ける活動も始めていますが、悲しいことに同日、彼らのビールを満載した出荷用トラックが盗まれてしまいました。

しかし彼らはめげず、アルコール消毒液を24時間体制で製造し続け、5月28日までに40万本以上を医療機関に寄付しました。その他、ビールの自家醸造によって「Stay Home」を促すための自社銘柄のレシピ公開、米国オハイオ工場で缶に詰めた水の原価販売・給食施設とホームレス宿泊施設への寄付、クラウドファンディング出資者向け年次株主総会である「パンクAGM」を4月25日にオンラインで開催するなどしました。いずれもビール会社としてだけでなく、民間企業として先進的な取り組みです。

小規模が大手を巻き込む「ビール蒸留」

米国では、世界最大の国際的なビール審査会であるワールドビアカップ(WBC)に関係した取り組みがありました。4月中旬に予定されていたWBCは当然開催されず、中止となりました。しかしその発表をしたタイミングでは、米国外から出品されたビールは各中継点に留まっていましたが、米国から出品された約2700のブルワリーのビールは既に本部(コロラド州ボールダー)に届いていました。このビールを無駄にしないため、隣接する州都デンバーにある二つの蒸留所に運んで下の写真のアルコール消毒液をつくりました。
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日本でもビールを蒸留してアルコール消毒液をつくる動きが出てきました。手掛けたのは茨城県の木内酒造です。日本酒やビールだけでなく、近年ではウイスキーの製造も始めました。そのための蒸留設備を使ったわけですが、声を掛けた先が想像力に富むものでした。

まずは4月13日から募集を始めたのが、飲食店で廃棄せざるを得ない樽のビールを引き取って、蒸留してジンにするというプログラムでした。4月7日以来の緊急事態宣言下において満足な営業をすることもできなかった飲食店では、既に仕入れていた樽のビールの賞味期限が切れるのが、切実な問題となっていました。引き取られたビールがジンになってお店に戻って来るという仕組みです。

次に声を掛けたのが、茨城県内にある大手ビール会社の工場です。アサヒビールは守谷市、キリンビールは取手市に工場を構えており、両方から合計2万4000リットルの出荷のめどが立たないビールの提供を受け、蒸留してアルコール消毒液にして茨城県と守谷市、取手市など4市に寄贈しました。業界だけでなく、地域にも貢献する素晴らしい取り組みです。

コロナ禍前の2019年10月、日本でビールの自家醸造をできるようにするために日本ホームブルワーズ協会が設立されました。理事長は、伊勢角屋麦酒で知られる二軒茶屋餅角屋本店の鈴木成宗社長です。特別会員として参加している京都府与謝野町が11月に内閣府に「ビールの自家醸造特区の設置」を提案するなど早くも動きを見せ、2020年3月には初めての会合が東京で開催されました。国難、世界の危機に直面している今、この活動の優先度は高いとは言えませんが、コロナ禍明けの活動再開が期待されます。

「無料」「妖怪」「近所」のビールで危機を乗り越える

消費者に直接訴えかける活動も出てきました。

志賀高原ビールは4月21日、「いろんなかたちでコロナと闘っているみなさんに少しでも笑顔になってほしい」という願いを込めて、「志賀高原IPA」1万本をウェブを通して無料提供し、わずか4分で「完売」しました。
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4月28日からはサンクトガーレンが「アマビエIPA」を発売しました。アマビエは疫病退散に関わりのある妖怪で、インターネット上だけでなく、厚生労働省も啓発画像に採用するなど、話題になりました。5月中旬には販売本数が2万に達し、その利益400万円は「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」に寄付されました。販売期間については「新型コロナウイルス感染が収束し、再びビールイベントが開催される時までの製造販売を予定」としています。かっこいい。
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味わいは、柑橘類の味わいを持つ7種のホップを使用していることもあり、口に含むと柑橘類の果汁のような感じすらあり、まさに今流行しているジューシーIPAらしい仕上がりです。

小さいけれども意義深い取り組みをしているのは、松江市にあるビールブランドであるビアへるんです。通販でビールを取り寄せると、「ビール職人からのメッセージ」として「家飲み追加は! お近くのクラフトビール酒屋さん! コロナ収束後には! お近くのクラフトビール飲食店!」というメッセージも入っていました。
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この記事のライター

長谷川小二郎

編集、執筆、英日翻訳。米WBC、GABF、豪AIBA、独EBS、日IBCなど国際的な上位ビール審査会で審査員。ビールと料理を合わせる「ベルギービールKAISEKI(会席)アドバイザー認定講座」「ビアコーディネイターセミナー」で講師。最新刊は共著・訳『今飲むべき最高のクラフトビール100』。

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